【Incident Report】呼吸しづらいレギュレーターで緊急事態

レンタル器材を使用して深く潜ったところ、空気が十分来ないと感じた
バディーブリージングを試したが息苦しさは改善されなかった
助けにきたダイブマスターと、オクトパスを使用しコントロールされた緊急浮上を実施

[報告されたケース]
レンタルしたレギュレーターは、呼吸しづらいと感じていましたが、水深約43mまで潜っていったところ、突然、空気が来ないと感じました。そこで、レギュレーターからオクトパスに替えたのですが、あまり変化を感じられませんでした。このため、バディからオクトパスで空気をもらい、多少呼吸しやすくなったのですが、やはり呼吸がしにくいと感じました。
ダイブマスターは私にトラブルが発生していることに気づき、オクトパスで空気を使用して一緒にコントロールされた緊急浮上を実施しました。
(注:ダイバーは64歳、身長約185cm、体重約95kg。ダイビング経験についての報告はなし。)


[専門家からのコメント]

ダイビングショップによっては、レンタルのレギュレーターを十分にメンテナンスしていない場合があります。また、レギュレーターの型によっては十分にメンテナンスされていても、ディープダイビングで十分な性能が得られないものがあります。
水深43mでは、水圧は5.2ATA(訳注:ATA(絶対気圧)は圧力の単位。)になり、海水面の5.2倍です。水深に比例して高くなる抵抗に逆らって、レギュレーターが同じ1呼吸分の量を供給するためには5倍の分子を供給しなくてはなりません。レギュレーターの設計やメンテナンスが適切でない場合、必要な量を供給できず、ダイバーはレギュレーターが“渋い”と感じるかもしれませんし、空気がないと感じることになります。今回のケースでは水深約43mに達する前に既に“渋い”感じだったのに、このダイバーはさらに深くにダイビングを続けました。これはあまり賢明な判断ではありませんでした。

このケースのように深いダイビングをするダイバーは、深場での使用感を確認済みで、定期的・適切なメンテナンス済みの自分のレギュレーターを持ってゆくのが、一番良いでしょう。

– Marty McCafferty, EMT-P, DMT

【Medical FAQ/医療相談】喘息発症後のダイビングについて

◆相談内容◆

1週間ほど前から咳が止まらず、病院で受診したところ、10年ぶりくらいに喘息を発症したことがわかりました。今まではまったく発作なども起きなかったのですが、喘息が誘発されるような環境にいたため、発症したのだと思います。現在、アドエア250ディスカス60吸入用を服用しています。

受診先の病院では、今週のダイビングは休んだ方が良いとのことでした。しかし、来週にもダイビングを予定しているので、可能であれば潜りたいと考えています。

◆医師からの回答◆

残念ですが、主治医の言うように、現状でのダイビングは勧められません。
喘息は、圧外傷のリスクがあり、かつてはダイビング禁忌とされてきました。その後の学会での議論を経て、最近ではコントロール良好な場合は、リスクを説明したうえでダイビングを許可する傾向にはあると考えます。
コントロールされていない状態とは、以下などがあげられます。
1. 気管支拡張剤を使用している。
2. 肺機能検査に異常がある。
3. 早朝のピークフロー値が予測値の80%未満のことがある(一定期間の測定において)
4. 運動誘発試験が陽性

本件では、喘息を発症した直後であるために 3 を満たしていないでしょうし、テオロング、アドエア250ディスカス60吸入用などは気管支拡張薬です。よって、まずは喘息の治療に専念し、コントロール良好になった時点で、改めてダイビング可否を評価することが良いと考えます。

また、DANJAPANのDDNETの先生には、喘息に詳しいドクターもおられますので、ダイビングを再開される際には、受診されることもお勧めします。
なお、専門医師の先生につきましては、DAN JAPANホームページのDDNETより確認することができますので、参考になさってください。
▶DDNET:https://www.danjapan.gr.jp/service/medical/sddnet

※DDNET医師は、ボランティアにより運営される医師のネットワークです。受入が可能かどうか、事前に確認のうえ受診ください。

―DAN JAPANメディカルチーム

【Incident Report】シャワー後に現れた 一過性の神経症状を伴った皮膚減圧症

熱いシャワーの後、目のかすみと軽いめまい(ふらつき感)を伴って
発疹とみみずばれが身体に現れた

[報告されたケース]
私はアドバンスダイバーで、200本以上のダイビング経験があります。
メキシコでの休暇中、4日間で計9本のダイビングをしました。全てのダイビングで圧縮空気を使用し、適切な安全停止を実施しました。さらに、同じ日に複数のダイビングをする場合、少なくとも1時間の水面休息をとりました。ダイビングコンピューターを使用して潜水を計画しました。

◆1日目◆
1本目:最大水深 18m、潜水時間 45分、安全停止 5分
2本目:水深記録なし、潜水時間 40分、安全停止 5分

◆2日目◆
1本目:最大水深 21m、潜水時間 46分、安全停止 5分(水面休息時間1時間)
2本目:最大水深 15m、潜水時間 50分、安全停止 3分

◆3日目◆
1本目:最大水深 20m、潜水時間 45分、安全停止 5分
2本目:最大水深 15m、潜水時間 50分、安全停止 3分
※2本目の後、かゆみを感じたが、シャワーを浴びたら消えたように思ったので、無視した。

◆4日目◆
1本目:最大水深 24m、潜水時間 40分、安全停止 5分(水面休息時間65分)
2本目:最大水深 10m、潜水時間 55分、安全停止 3分(ホテルに戻り昼食)
3本目:最大水深 5m、潜水時間 54分、安全停止なし(ビーチダイビング)

4日目の最終ダイビングの約3時間後、宿泊先に戻りシャワーを浴びている最中に、皮膚がひどくかゆくなりました。かゆみは悪化し続け、おしりに近い腰と右胸に痛みも出てきました。視界がぼやけ、軽いめまい(ふらつき感)がありましたが、夕食後には落ち着きました。そして、皮膚に赤いシミのような発疹と、みみずばれがあることに気づきました(写真1)。

【写真1】

DANの緊急ホットラインに電話したところ、宿泊先から近い医師を紹介されました。
医師は私の症状を診察し、皮膚減圧症(DCS)、すなわちスキン・ベンズと診断しました。医師からは、窒素は身体の脂肪のある部位に行く傾向があると説明されました。そうだとすると、おしりに近い腰と右胸に痛みがある理由が説明できます。翌日、経過観察のために再診するよう指示されました。

痛みと発疹は、診断を受けた次の日に消えました。医師からは「今回の旅行中のダイビングは禁止」と強く指示されました。休暇から帰り、いくらかヒリヒリ感がありましたが、それは高度変化によるものだと考えました。DANは私に必要なサポートを全て提供してくれたうえに、治療費はダイビング事故保険で補償されました。DANの会員でなかったらどうなっていたか、想像もつきません。

[専門家からのコメント]
今回報告された症状、徴候の出現や進行の状況は、珍しいケースではありません。このダイバーの経験は、他のダイバーによって報告されたものとほぼ同じです。皮膚に症状が出た症例の20%近くで、神経症状-例えば、目がぼやける、めまい(ふらつき感)、意識混乱など-が付随することを知っておくことは重要です。神経症状の中にはわかりにくいものがあるため、明白な神経症状がある/なしに係わらず、必ずダイビングに詳しい医師への受診を推奨します。

通常、皮膚に症状が出た症例では、まず常圧下の酸素を投与します。神経症状が現れている場合、医師は再圧治療を選択する可能性があります。

一生に1回しか皮膚減圧症を経験しないダイバーもいますし、何度も不規則に症状を経験するダイバーもいます。皮膚減圧症の症状が出現する理由も、正確な発症メカニズムもはっきりとはわかっていません。しかし、このダイバーが説明を受けたように、一般的に影響を受ける部位は脂肪組織のある部位に多い傾向があります。最初、かゆみが出て、大体、写真のように皮膚が斑点または擦り傷のように見えるような状態になります。しかしほとんどの場合、かゆみと斑点は皮膚減圧症以外の原因によるものである、と診断されてしまいます。

減圧症ではない一般的な皮膚反応や発疹は、上記とは異なった形で現れます。その違いを区別できることは、非常に重要です。
このダイバーが説明しているように、表面だけではなく皮膚のより深いところでも痛みやヒリヒリ感があります。ヒリヒリ感は、筋肉を酷使した時の痛みに似ている、と表現される場合もあります。この深部のヒリヒリ感は、一般的な発疹と皮膚減圧症とを区別するのに役立つ方法の1つです。

もし皮膚減圧症が疑われる場合には、ダイビングを中止し、可能であれば医師の診察を受けてください。適切な応急手当は陸上で酸素を吸うことですが、神経検査もなるべく早くに受けてください。
症状が出た場合、その旅行期間中はそれ以上ダイビングをしないことを推奨します。もしも危険性を知りながらもダイビングを続ける、と決めたならば、すべての斑点とヒリヒリ感が完全に解消するまでは待つ必要があります。完全に解消する前にダイビングを行うと症状がぶり返し、症状が悪化する可能性が高くなります。

もし、あなたが皮膚減圧症を何度も経験するような珍しい人であれば、潜在的な問題があるかどうか検査することを推奨します。DANでは、担当医と共に検査方法を検討することも可能です。

– Marty McCafferty, EMT-P, DMT

【医療関連情報】ダイビングと糖尿病(ガイドライン)

レクリエーショナルダイバーのためのガイドライン
ダイビングと糖尿病

DANは、高気圧関連学会においてワークショップを実施し、エキスパートに意見を求めた上でガイドラインを策定しています。

多くの場合、非医療従事者にはガイドラインは理解するのが困難なため、より多くのダイバーに情報を広く届ける目的で、インフォグラフィックを作成しています。

今回は、「ダイビングと糖尿病」をご紹介します。
(なお、英語版のインフォグラフィックはここからダウンロードできます。)

↑イラストをクリックでダウンロード
「レクリエーショナルダイバーのためのガイドラインダイビングと糖尿病」

↑イラストをクリックでダウンロード
DAN:Guidelines for Recreational Diving with Diabetes – Summary Form

 

【Medical FAQ/医療相談】降圧剤を服用してのダイビング

◆相談内容◆

質問者:男性・50歳(インストラクター)

インストラクターです。主治医がダイビングに詳しくないため、DANに相談することにしました。

最近、高血圧予防の為、薬を服用するよう医師から指示されました。
「ミカムロ配合錠AP」という薬を朝食後に一錠飲んでいます。ダイビングを行って身体に影響ないか心配していますが大丈夫でしょうか。

◆医師からの回答◆

高血圧は心臓に負荷をかけ、結果として心不全、虚血性心疾患を引き起こす可能性(リスク)があります。ダイビング中には血圧が上昇しやすいため、血圧コントロールが求められます。また、心疾患はダイビング事故の死亡原因の13%を占めるというデータもあります。降圧剤には様々な種類があり、「ミカムロ配合錠剤AP」はカルシウム拮抗剤とアンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)の合剤です。
http://med2.astellas.jp/corp/basic/details/mca/expmed/dip-mca-ap.pdf

降圧剤とダイビングの関連について、多くの情報はありませんが、以下の文献に記載がありますので参考にして下さい。
http://npominder.justhpbs.jp/newpage15_4.html

上の文献にもあるように、「ミカムロ配合錠剤AP」は比較的問題の少ない薬剤と思われます。
ただし、副作用の出現には個人差があるので、最近投薬を開始したのであれば、しばらく(例えば1カ月くらいは)内服を継続し、様子を見た上で(副作用の出現が無い事を確認した上で)ダイビングを行うことが良いと考えます。
薬の説明文にもあるように(1番目のリンク先参照)、ミカムロ配合錠剤APにも、呼吸器系の問題などが生じることがあります。

なお、DAN JAPANのガイドラインでは、「コントロールされた高血圧」は相対的に危険な状況(比較的危険性は低い)とされています。

DAN JAPANでは40歳以上のダイビング希望者について、冠動脈疾患の有無の検査(運動負荷試験等)をすることを推奨しています。質問者の運動能力(運動習慣)はいかがでしょうか。文献(2番目のリンク先参照)にもあるように、ダイビングには一定の運動能力が必要です。

このような状況を主治医とよく相談しながら、より安全な身体状態でダイビングに臨むことを期待します。

追記:
主治医がダイビングに詳しくないとのことですが、循環器の医師であれば、患者から通常の運動に関する相談を受けることは多いと思います。
ダイビング中は、
1. 血圧が上昇しがちなこと
2. 体の中心に血液が集まるので心臓の負荷が増加すること
3. 水中での虚血性心疾患発症は死亡事故につながりやすこと

を説明したうえで、アドバイスをもらうことが良いのではないかと思います。

―DAN JAPANメディカルチーム