投稿者: master
【Medical FAQ/医療相談】うつ病でのダイビング
相談内容
現在、うつ症状との診断により、エチゾラム0.5mg(1日3回)、セニラン3mg(外出するときは夜1錠のみ、終日出かけない時は1日3回)服用しています。
これまで服用後も短期、長期での飛行機を利用しての外出はしており支障を感じたことがありませんが、これらの薬を服用してから初のダイビングを週末予定しているため、ダイビングを行うにあたって服用に関し注意すべき事項をお伺いしたく、相談をさせて頂きました。恐れ入りますが、ご教示頂きたく、どうぞよろしくお願い致します。
◆医師からの回答
エチゾラム(デパス)、セニランは共にベンゾジアゼピン系の薬です。抗不安作用があり、うつ病に伴う不安症状に用いられます。残念ながら、これらの薬と潜水との関係(潜水中に薬の効きが強くなるないしは弱くなる等)について調べられた論文は見つかりませんでした。
ただし、潜水適性を考えるにあたり、投薬内容も考慮すべき一つですが、それよりもうつ病のコントロール状況がどうなっているかが重要です。例えば健常人でも不安はあるものです。崖の端に立つ、潜水でいえば深場に行く等において一定の不安を持つことは大事なことであり、それによって危険を回避することが出来ます。
不安感は有り過ぎても無さ過ぎても問題です。質問者が予期せぬアクシデントにも適切に対応できる精神状態に有るのか否かは主治医による注意深い観察が必要でしょう。ベンゾジアゼピン系の薬には催眠作用もあります。現在投薬で日常生活は問題なくおくれているようです。しかし、危険な運動の可否について主治医に相談されたことはあるでしょうか。
潜水に詳しくない医師であれば、特に潜水でなくても良いです、例えばハンググライダー等、ちょっとした判断の誤りが生命の危機に直結するような運動でも主治医は許可されているでしょうか。エチゾラム、セニラン共に、眠気、注意力低下などの問題があり車の運転、危険を伴う機械の操作は避けることが推奨されています。
ただし、だからといって潜水にあたって必要な服薬を止めることは、その疾患の性質上も勧められません。例えば、薬を止めることでパニック発作を起こしやすくなるとすると、その方が危険です。
いずれにせ、うつ病の潜水是非についてゴールデンスタンダードはありません。主治医とよく相談されることを勧めます。
◆事務局からの回答
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【Medical FAQ/医療相談】睡眠障害のダイビング可否
【Incident Report】笑ってエア切れ
ふざけてレギュレーターを外したら、レギュレーターとオクトパスから空気が吸えない
バディ同士のコミュニケーション、ダイビング前の器材チェックの大切さを学ぶ
[報告されたケース]
私は長くスキンダイバーもしているスクーバダイバーで、ダイビングでは50本以上潜っています。
この日、友人グループと水深20mに潜り、いつも通り水中でふざけ始めました。私は、水中ではいつもレギュレーターを口から外して笑います。レギュレーターを口に戻そうとした瞬間に、友人が後ろから私を押したので、私はさらに大笑いしました。
その後、レギュレーターを口に戻そうとしたところ、息を吸うことができず、何度か試したのですがダメでした。トラブルだと友人に知らせようとしたのですが、彼らは私がふざけていると思っていました。
残圧を確認すると、ゲージは80barを示していました。オクトパスに交換しましたが、それでも呼吸はできませんでした。友人達は離れすぎていて、彼らのオクトパスにも手が届きません。試しにBCDのパワーインフレーターボタンを押すと、BCDに給気はできました。十分残圧があったのにもかかわらず、レギュレーターから呼吸することができなかったのです。
そこで、私は急いで浮上しようと思いましたが、水面を見上げた時、直浮上が出来る距離ではないと気づきました。息をしたい衝動は本当に耐えがたいものでしたが、浮上は選択肢ではないことを理解し、パニックにならないよう、自分に言い聞かせました。
その後、最後の望みを託してレギュレーターとオクトパスのパージボタンを押したところ、なんと両方とも空気が出ました。レギュレーターを口に戻し、パージボタンを押してようやく呼吸することができました。
レギュレーターが再び使えるようになったので、ダイビングを終了しゆっくりと浮上することに決めました。すべてのことは15~20秒の間に起きた出来事です。私はいつも水中でとても落ち着いていますが、これは予想したことのないトラブルでした。これまで、レギュレーターをくわえなおすのにパージボタンを押すなんて、考えたこともありませんでした。
[専門家からのコメント]
1つの原因のみでダイビング・インシデント(深刻な事態を引き起こしかねない事件)や、事故が発生することはあまりありません。
今回のケースは、複数の原因がインシデントにつながった一例であり、重大な結果にならなかったのは非常に幸運でした。悲惨な結果につながっていた可能性もあったと思います。
このケースでは以下の原因について考えてみる必要があるでしょう。
●レギュレーターのメンテナンス
●予備レギュレーターのダイビング前チェック
●バディダイビング
●水中でのコミュニケーション方法
●ふざけながらダイビングすること
このダイバーの記述からは、当初レギュレーターには問題がなく、空気供給量は十分であったことがわかります。器材のメンテナンスについては、記述がないので不明です。レギュレーターを口から外した後、正常に機能しなくなった理由ははっきりしませんが、ある程度の推測が可能です。セカンドステージのバルブが、ゴミや塩の結晶で正常に作動しなかったのかもしれません。また、ダイビング前に、水面でオクトパスを確認したかかどうかは不明ですが、レギュレーター同様、ゴミや塩の結晶で動かなかったのかもしれません。ゴミや塩の結晶が付着している場合、通常の吸気で発生する陰圧では、レギュレーター内のバルブを作動させるのに十分な圧力がない場合があります。手でパージボタンを押したところ、ようやくバルブを作動させるだけの圧力が生じました。レギュレーターを口に戻す前にパージボタンを押すのは、標準的な手順であるはずです。
器材の適切なメンテナンスの必要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。ダイビング前にレギュレーターとオクトパスの両方を水面で呼吸してみることで、問題に気付くことができます。また、このチェックによって最悪の事態を回避する、または対処できることでしょう。
さらに今回のケースでは、バディ同士が助け合うことのできる、適切な距離にいる必要性を示唆しています。透明度が良い時に「たがいに見える距離にいる」バディは「必要な時にアシストする」には離れすぎている恐れがあります。見える距離にいても、バディが助け合うには遠すぎる場合があり、時には離れ離れになってしまうこともあります。このケースでは、問題をバディに気づいてもらえなかった後「バディが遠すぎてオクトパスに手が届かなかった」と本人が報告しています。問題となる状況は、たったの数秒でさらに悪化する可能性もあります。DANの発表しているデータでは、40%の死亡事故でバディと離れ離れになった状態が関与していることを示しています。
バディとの適切なコンタクト、および有効なコミュニケーションは、安全なダイビングに必要不可欠です。このダイバーは、バディに自身の状況をどのように伝えようとしたか、報告していません。今回の状況は、もちろん講習で想定された状況ではありませんが、一般的なハンドシグナルを使用するのが最も適切でしょう。ダイビング前、バディと一緒のハンドシグナルの確認は、互いに理解度を確認できるため、大変重要です。この手順は、めったに使用しないハンドシグナルについても確認、および練習する良い機会となります。器材の適切なメンテナンス、バディコンタクトとコミュニケーションの確認は、代わりになる手順が無いのです。
そして最後に、確かにダイビングは遊びですが、真面目な活動であることを認識しておくのが重要です。ダイビング中にふざける余地はほとんどないのです。
– Marty McCafferty, EMT-P, DMT
【Seminar】安全潜水を考える会 研究集会の開催決定!
今年で21回目の開催となる「安全潜水を考える会 研究集会」。
DAN JAPANにご協力頂いている医師・海上保安庁などの講師をお招きし、ダイビングの安全に関して講演していただいています。
今年は、循環器専門医である高木 元先生より、心臓・冠動脈・大動脈・血圧などの疾患がある方/現在持病はなくても肥満や運動習慣がない方がスポーツする際の留意点や、アドバイスなどをお話しいただく予定としています。循環器内科領域の情報は、ダイバーにとって大変重要です。セミナーでは、質疑応答も予定していますので、是非ご参加ください。
※本セミナーは、事前申込みが必要となります。人数に達した場合には締切とさせていただきますので、お申込みはお早めに!
●案内図(東京海洋大学HP)【白鷹館】案内図21番
●JR線・京浜急行 品川駅港南口(東口) 徒歩10分
●東京モノレール 天王洲アイル 徒歩15分(正門まで)
●りんかい線 天王洲アイル 徒歩20分(正門まで)
ダイビングショップ潜楽屋
【Medical FAQ/医療相談】乳がん手術後のダイビング復帰
◆相談内容◆
乳がんのため、5か月前に乳房の摘出と穿通枝皮弁法での再建手術を受けました。
手術1ヶ月後からは再発を防ぐためのホルモン療法としてノルバデックスを服用しています。服薬は5年間続く予定です。手術の傷口も落ち着いてきたし、日常生活や運動にも支障がなくなってきたので、そろそろダイビングに復帰したいと思っています。ただ、乳房再建のときに血管をつなぐ手術をしているので、ダイビングをしても血管は大丈夫か気になっています。
近いうちに主治医の先生に相談してみようと思っていますが、ダイビングを再開するにあたって、確認しておくべきこと、注意すべきことはあるでしょうか。
◆医師からの回答◆
乳がん切除後の再建術には様々な方法があります。穿通枝皮弁による再建は、手技が難しく、誰でも出来るわけではありません。しかし、例えば下腹部からの移植では、腹直筋を犠牲にせずに乳房再建が可能となりますし、人工物(インプラント)を挿入する必要がない利点もあります。皮弁手術直後の皮弁の血行は不安定であり、局所安静、場合によっては抗凝固療法が行われます。当該手術では微小血管縫合を要しますが、縫合部は血栓形成により再閉塞しやすいからです。 しかし、術後数日間生き残った縫合血管が、その後に再閉塞する危険性は小さいです。
また、皮弁に関して、当初は縫合した血管に全面的に栄養を依存しているため、縫合血管が閉塞すると皮弁も壊死(腐る)します。それが、創治癒(傷が治る)後は、皮弁には周辺の組織から血管が入ってきます。そのため、縫合血管だけに栄養を依存しなくなります(普通の皮膚と同じ状態になります)。 よって、創治癒しているのであれば、皮弁によってダイビングが制約されることはないと思います。
ただ、皮弁の詳細が不明にて、担当医には、皮弁については上記のように理解してダイビング再開を考えているが、大丈夫ですか、と確認することが良いかと思います。
なお、質問に具体的には言及がありませんでしたが、乳がんでは別の問題もあります。
【放射線治療・化学療法(抗がん剤治療)】
治療として放射線治療、化学療法が行われることがあります。両者ともに、時に肺障害を生じます。 よって、放射線、化学療法中にダイビング復帰は勧められませんし、治療後の復帰の際には、呼吸器内科で肺機能について相談することが勧められます。
【ホルモン療法】
ノルバテックスのようなホルモン剤ではまれにホットフラッシュ、嘔気等、副作用が生じます。 副作用が強い場合は、ダイビング再開前に主治医と相談した方がよいでしょう。 また、まれな副作用として血栓塞栓症(血が固まりやすい)、間質性肺炎、視力障害などがあります。例えば、咳がひどい、などがあれば主治医と相談した方がよいでしょう。 ダイビングに関していえば、脱水は血栓塞栓症を誘発し、減圧障害のリスクを高めますので、水分補給には気を付けて下さい。
ホルモン療法の副作用として体重増加も見られるようです。 肥満はダイビングにおける危険因子とされているので、体重コントロールには気を付けてください。(DANメディカルチェックガイドラインより)
【乳がん手術合併症】
乳がん手術では肩関節が固くなる方もおり、極端に動かない場合は、ダイビング時に支障が生じますし、乳がん術(リンパ節郭清)後にリンパ浮腫で上肢が腫れる方もいます。 ただ、日常生活・運動に支障がないとの記載からは、問題がないものと推察します。
以上、チェックする点、気を付ける点はありますが、今回の情報からは、ダイビングを禁止する理由は無いのではと考えました。以上を踏まえて、次回に主治医に相談されたらいかがでしょうか。
無事のダイビング復帰をお祈りしています。
-DAN JAPANメディカルチーム
田辺ダイビングサービス
高知県立幡多けんみん病院
ダイビングショップ セブン
【Medical FAQ/医療相談】肺圧外傷患者のダイビング可否
◆相談内容◆
質問者:医師(患者について)
当院を受診された方の潜水適性について、ご相談です。
患者は24歳男性、スキューバダイビング後に咽頭痛を自覚し当院を受診され、CT検査により縦隔気腫(頚部〜横隔膜上)の診断となりました。減圧症や空気塞栓症を示唆する所見はなく、浮上中の圧損傷による縦隔気腫が疑われました。
本人の希望もあり、入院せず外来通院としましたが、以後改善され終診としていました。
今回、受傷より約3週間後に、医師診断書の依頼のため来院されました。
診断書は、「スキューバによるダイビング・トレーニングに参加を申し込んでいるが、スキューバダイビングに適した健康状態であるかどうか」という内容であり、選択肢には
●ダイビングに不適格であると考えられるような、医学的障害は見受けられません
●ダイビングをすることは勧められません
のいずれかを選択し、根拠を述べる様式となっています。
前回、本人は急浮上や息止めはしないよう気をつけて浮上したと話しており、その状況下での縦隔気腫なのであれば、ダイビング勧められない、と考えていました。
しかし、本人の希望は強く、リスクに対する本人の同意に基づいてダイビング・トレーニングを許可する余地があるのではないかとも思います。
いずれにしても、専門家の見地を踏まえた上で回答すべきと考え、ご相談させていただいた次第です。
なお、現在本人の自覚症状はなくお元気にされています。
◆医師からの回答◆
縦隔気腫は、潜水では浮上時の肺圧外傷を原因として発生します。
急激発生の重症例もありますが、浮上後ある程度時間を経過してから発症し、自覚症状が軽度な症例も見られます。動脈ガス塞栓症(AGE)合併例も重症例です。肺圧外傷では皮下気腫、気胸も生じることがあります。
縦隔気腫の治療は、全身管理を要さず、減圧障害を疑う症状・所見がない場合は、経過観察、酸素投与等の保存療法が行われます。
【治療後の潜水適性】
基本的に、潜水に対する適性は無いと考えます。「急浮上や息止めはしないよう気をつけて浮上した」という状況下で肺圧外傷→縦隔気腫を発症したのであれば、やはり肺組織の脆弱性があるものと考えざるを得ないからです。
一方で、上記判断を裏付ける強いエビデンスが無いことも事実であり、また、本件のようなケースで肺圧外傷を確定診断することは困難なことも多いです。
そのため、肺圧外傷→縦隔気腫との判断がどの程度確かか悩むことも多いです。
よって、リスクを説明した上で、本人に潜水をするか否かを決めさせることもひとつかもしれませんが、水中での肺圧外傷→気胸、AGEは時に致命的になるため、医師として積極的に潜水を許可することは難しいのではと考えます。
-DAN JAPANメディカルチーム