【Medical FAQ/医療相談】結核の既往とダイビング

◆相談内容◆

質問者:男性・年齢不明

7年程度前に肺結核と診断を受けました。1年間の経過観察後、担当医師より完治との診断を受けたので、数回にわたり体験ダイビングをしました。
今回、ショップで体験ダイビングを申し込んだところ、「既往歴はありますか?」と聞かれ、正直に回答したところ、「医師の診断書がないとサービス提供できない」旨のメールと共にDANのメディカルチェック(参加者用)が送られてきました。

完治から時間が経っているため今は当時の主治医にかかっておらず、診断書を依頼するのは困難です。
また、DANのメディカルチェック(医師用)、潜水指導団体の病歴診断書のどちらにも「結核」に関する記載はありませんでした。
結核はダイビング適性とどのように関係するのでしょうか。医師の診断書は本当に必要でしょうか。

◆医師からの回答◆

◎結核とは
結核は結核菌による感染症です。肺以外にも、リンパ節、脊椎、腸なども侵されます。
肺結核では、肺に空洞性病変を作ります。

【結核とダイビング適性】
肺の空洞性病変は、潜水中に空気を捕捉することがあり(エアートラッピング)、浮上時にその空気が膨張することにより組織が破れる危険性があります。
よって、DAN JAPANガイドラインでは、硬化性の病変、嚢胞性の病変とともに、空洞を伴う病変の既往を、肺の気圧外傷を起こす可能性があるため「相対的に危険な状態」としています。よって、ダイビングの実施にあたっては、画像検査(レントゲン、CT等)による空洞性病変の有無の確認、呼吸機能検査が正常であることの確認が求められます。

【今回の質問者の場合】
本件においても、上記検査を行い空洞性病変の有無呼吸機能について確認することが必要です。

【DANのメディカルチェックの重要性について】
質問者はすでに7年程前に結核が完治し、その後数回体験ダイビングをしているとのことです。
よって、その際に上記の精査と検討が行われており、異常がないことは質問者にとっては自明なのかもしれません。しかし、今回新たなダイビングショップで体験ダイビングを申し込んだのであれば、異常がないことは、そちらのスタッフにとっては自明なことではありません。
よって、DANのメディカルチェックによって情報提供していただくことが重要となります。

もちろん、「肺結核は完治した、以前に検査もして潜水は可能と診断されている」との質問者の口頭での説明をそのまま認めるダイビングショップもあるかもしれません。
しかし、患者の自己申告が医学的に必ずしも正しくないことは珍しくないのです(患者は医学の専門家ではないのでやむをえません)。

医師が医療機関間で患者のやり取りを行う場合(手術のお願い、転居による転医等)は、必ず紹介状を患者に持たせます。それと同じように、今回のダイビングショップの対応についても、メディカルチェック用紙記載を求めたということは、医学的に正確な情報を得ることでゲストの安全に配慮しているということであり、むしろ丁寧な対応であると考えます。

当時の主治医を受診することが難しければ、潜水医学に詳しい内科医(DAN JAPANのサイトから検索できます)を受診し、結核の既往を説明したうえで、相談して記載してもらうのがよいでしょう。

◆後日報告◆
潜水医学に詳しい内科医を受診(胸部CTと肺機能検査)。
検査の結果、癒着が見られたため、スノーケルのみの限定許可となりました。

―DAN JAPANメディカルチーム

【Incident Report】スチールタンクを使用し、潜降中にバランスを失う

慣れていない重いタンクを使用したため、
潜降中に背中側にひっくり返ってしまった。

[報告されたケース]

今回のダイバーは、経験豊富なダイバーでしたが、他のダイバーより空気の消費量が多いことを自覚していました。このため、グループでダイビングする際、空気消費量が少ないダイバー達も彼のために潜水時間を短縮しなくてはならず、周囲に迷惑をかけていると感じていました。

担当インストラクターは「サイズの大きなスチールタンクで潜れば、水中で呼吸可能な空気量は増加する。でも、タンク自体が重いため、今までと同様の浮力にするためにウェイトを減らさなくてはならない。」とアドバイスしました。
また、マイナス浮力のスチールタンクを使用する際には、注意しないとタンクに引っ張られバランスを失いやすいことを説明し、水中でのタンクの扱い方も指導しました。そして、通常5kgつけていたウェイトを、3kgにすることをアドバイスしました。

その後、ダイバーは大きなスチールタンクを使用して通常通りに潜降を開始し、圧平衡(耳抜き)を始めましました。しかし、スチールタンクの重みで潜降中に後ろに引っ張られ、徐々に足が上の姿勢になり始めた結果、潜降速度が加速し耳抜きをするのが難しくなりました。また、上下逆さになったため、呼吸のたびにレギュレーターの排気バルブから水が入ってくるという問題が生じました。そして、海水を飲んだために、レギュレーター越しに吐いてしまいました。

そこで、ダイバーは潜降を止めるためBCDを膨らませ、姿勢を安定させた後に圧平衡(耳抜き)が可能な深度まで浮上して、吐き気を止めようとしました。そして、担当インストラクターに「水面にまで浮上し、少し落ち着いた後にウェイト調整の必要がある」と合図しました。

その後、このダイバーはツアー最終日までに余分なウェイトを減らし、スチールタンクの重さだけで素晴らしい浮力コントロールができるようになりました。

[専門家からのコメント]

アルミからスチールのタンクに替えるというアドバイスは、「過剰な空気消費から来る不安感を取除くため、水中に多くの空気を運ぶ」という意味では良かったと思います。担当インストラクターは新しい器材構成への助言をし、この器材構成だといくつかの難点があることを指摘したのも、正しかったでしょう。

通常、トレーニング中には「器材の構成を変更した場合には、管理された環境(プールや限定水域など)で試してみる必要性がある」と指導されます。ダイバーは、問題が発生した場合に立つことが出来る浅い水域で、浮力やウェイトの配置を調整し、試すことによって、浮力をコントロールできるようになります。

海で実際にスチールタンクを使用する前に、まずプールで新しい器材構成を試すようにしていれば、より安全な環境で問題を発見でき、ダイバーにとって利益は大きかったと思います。担当インストラクターが全て管理して練習するのではなく、アシストだけでダイバーが新しい器材構成の練習を出来れば、海に行った時さらに自信を持ち落ち着いてダイビングができたでしょう。
もし今回のダイバーがもっと経験やトレーニング不足だったならば、パニックになって急浮上し、より重大な事故になっていた可能性もあります。

【今回のケースで得られた教訓】

●インストラクターと、器材や装備の構成の問題を解決するため一緒に潜るのは、とても良い事です。
●特殊な装備を初めて試す場合は、正式なトレーニングを受けてからダイビングしてください。
●新しい器材に慣れるため、プールや限定された水域等の環境で試すようお勧めします。

– Brian Wake

【Medical FAQ/医療相談】痛風・服薬中ダイバーのダイビング

◆相談内容◆

質問者:男性(インストラクター会員)

痛風の持病があるゲストからのお問合せがありました。
「ダイビング時に痛風の薬(フェブリク錠)を服用していますが、服薬してダイビングをしても問題ないでしょうか」との質問がありました。
ご教示いただきますよう、お願いいたします。

◆医師からの回答◆

◎痛風とは?
痛風とは、尿酸が体内にたまり尿酸結晶となることで激しい関節炎を生じる疾患です。血液中の尿酸値が高い状態を高尿酸血症といい、痛風のほか、腎障害などの原因となります。
痛風の治療は発作時に関節炎に対する消炎鎮痛の治療を行うことと、基盤にある高尿酸血症に対する治療を行うことが重要となります。

また、高尿酸血症はメタボリック症候群のマーカーとして見られることがあります。つまり、尿酸値が高いことが生活習慣病(かつて成人病と言われていました)と関連し、ひいては、心血管系疾患の発症リスクを反映しているのでは、との見解があります。

【高尿酸血症の治療薬】
高尿酸血症の治療薬は大きく2つにわかれます。
1.尿酸の作成を抑える薬
2.尿酸の排泄を促す薬

フェブリク錠は1.にあたる比較的新しい薬剤(2011年より本邦で発売)です。肝機能障害等様々な副作用がありますが、ダイビング上特に着目すべき副作用は指摘できません。

【今回のゲストの場合】
実際の副作用出現状況をゲストに聞いてみるとよいでしょう。激しい運動は尿酸値を上げるので勧められませんが、高尿酸血症の治療として軽い運動はむしろ推奨されますので、その意味では通常のダイビング活動は可能と思います。
ただ、前述したように一定の心血管系のリスクを内在している可能性があるので、そのほかの高血圧などの生活習慣病の有無や運動適性について、主治医と相談するのがよいでしょう。

-DAN JAPANメディカルチーム

【Incident Report】皮膚の発疹を見逃すべきではない

ダイバーは皮膚減圧症(DCS)を発症していたが、気付いていなかった。
その後症状は自然に消失した。《2012年トリニダード・トバゴ》

[報告されたケース]

58歳女性ダイバー(身長180cm/体重75kg)がトリニダード・トバゴにダイビング旅行に行き、毎日複数回のダイビングを6日間連続で行いました。最大深度は全て水深24m以下のダイビングでした。
4日目に、ダイバーは体幹部分の皮膚の発疹に気づきました。原因がわからず、炎症用のAleve*を飲みましたが改善は認められませんでした。その後もダイビングを続けましたが、水中では「皮膚の発疹」が改善することに気づきました。
体幹部分の発疹は、6日目の最終ダイビング後、帰国飛行機搭乗前の時点では消えていました。飛行機の搭乗中については、特に何も報告はありませんでした。
*Aleve=アリーブ/アメリカ市販薬。ナプロキセン系の解熱・鎮痛剤

カナダに帰国後、「ダイビング後のしみのような皮膚の発疹」をネット検索したところ、一番最初に検索に上がってきたのは「皮膚減圧症」でした。この時点でDANに連絡し、紹介された医師の診断を受けるよう指示されました。

帰宅して2日後、最終ダイビングから3日後の診察では、症状はでておらず、身体所見も報告されませんでした。また、神経学的な観点でも損傷は受けておらず、関連する所見も報告されていません。

[専門家からのコメント]

皮膚減圧症は一般的ではなく、多くのダイバーは減圧症(DCS)の症状が皮膚に出現することを知りません。皮膚症状だけなら治療が必要ない可能性もあります。しかし、ダイバーが気付いていない神経症状(知覚障害、痛み、しびれなど)の可能性を除外するために、医学的な評価が必要です。

皮膚減圧症(DCS)は、「チョークス」と呼ばれる、呼吸困難と咳き込みを伴うことがあります。このようなケースでは、神経症状が存在する可能性が高くなります。しかし、神経症状はチョークスを伴わずに存在する可能性もあります。チョークス及び神経症状が出ているダイバーを救急病院に搬送する間は、応急処置として大気圧下での酸素投与をするべきです。

このケースでは、症状は自然に消えました。とはいえ、皮膚発疹が出ているのにダイビングを続けることは勧められません。皮膚の発疹のあるダイバーは、神経症状があるか診察してもらうべきでしょう。

– Petar Denoble, M.D., D.Sc.

【お知らせ】DAN JAPAN(事務局)年末年始の営業について

DAN JAPAN事務局の年末年始スケジュール

DAN JAPAN事務局は以下のスケジュールでお休みをいただきます。
年末年始にダイビングを予定されている方は、お早めにお手続きください。

【事務局休業期間】
12月28日(金)13時まで営業
12月29日(土)~1月3日(木)休業
1月  4日(金)13時から営業
1月  7日(月)~ 通常営業

※会員カードは、お申込み完了から1週間程度でお届けできるよう、ゆうメールで発送致します。
(地域や郵便事情でお時間がかかる場合もあります。)
※新規ご入会・更新手続きは12月27日(木)までとさせていただきます。

●お休み中にWeb等にてご入会手続きをした場合:
お申込み情報に不備がなく、年会費の入金が完了した日が入会日となります。
レジャーダイビング保険は、入会日の翌日からの補償となりますのでご注意ください。
※国内からのお申込みのみとなります。出国後のお手続きの場合、保険適用外となります。
※お申込み情報に不備がある場合には、入会が完了しない場合があります。お早めにお手続きください。

●1月1日中途加入のダイバープラス保険および業務中プラン保険:
12月20日(木)が申込み期限となりますのでご注意ください。

【期間中の提供サービスについて】
●DAN緊急ホットライン:24時間対応致します。
 →減圧障害が疑われる場合には、ホットラインまでご連絡ください。
●DANメディカルインフォメーションライン(医療相談):
メールでのご相談は上記期間も受け付けておりますが、ご返答につきましては2019年1月4日(金)以降の手配となり、医師照会案件は手配後1週間程度お時間をいただくこととなりますのであらかじめご了承ください。
お電話によるご相談は、事務局営業期間にご連絡ください。
●事故報告の受付:事務局営業期間にご連絡ください。

DAN酸素インストラクタートレーナー講習開催のお知らせ

2019年のDAN酸素トレーナー講習開催が決定しました!
※2017年リリースの新教材を使用した講習となります。
 新教材をお持ちでない場合、教材のご購入が必要となりますので、ご注意ください。

【開催日/場所】
●伊豆会場:2019年2月19日(火)、20日(水)2日間
(申込期限:2019年2月8日(金)書類事務局必着)
静岡県賀茂郡東伊豆町稲取1965-6 稲取マリンスポーツセンター内 会議室
開催案内(伊豆会場)

●横浜会場:2019年3月28日(木)、29日(金)2日間
(申込期限:2019年3月15日(金)書類事務局必着)
神奈川県横浜市中区本町4丁目43番地 A-PLACE馬車道3F 大会議室
開催案内(横浜会場)

【講習受講料】
インストラクタートレーナー新規講習:40,000円(税込43,200円)
インストラクタートレーナー更新講習:20,000円(税込21,600円)
インストラクタートレーナーアップデート講習:5,000円(税込5,400円)
*教材費(別途):15,556円(税込16,800円)

【参加申込書】
DAN酸素インストラクタトレーナー講習 参加申込書/受講条件確認書

※参加申込書記入→所属指導団体より承認印受領→受講条件確認書と共にDANにご確認ください。
記載内容を確認後、DANより受講料と教材のお支払依頼のご連絡をさせていただきます。
※2017年より教材が改訂となりました。「新規」「更新」のいずれの場合でも、教材をご購入ください。(価格については各開催案内に記載されています。)

【お問合せ先】
DAN JAPAN事務局 トレーニング担当 白石
☎045-228-3066(平日9時~17時)
✉shiraishi@danjapan.gr.jp