【Medical FAQ/医療相談】外傷性気胸後のダイビング

【Medical FAQ/医療相談】外傷性気胸後のダイビング

◆相談内容◆

質問者:男性・46歳

約1年前に交通事故で外傷性気胸になりました。その後順調に回復し、現在服薬なし、スポーツ(サイクリング、ランニングなど)も楽しんでおり、生活に支障はありません。

先日、体験ダイビングに申し込もうと思ったところ、問診票に「気胸の既往歴がある場合には、医師への相談が必要」と記載がありました。
ウェブなどで自分なりに調べたところ、「自然気胸」はダイビングで禁忌となっていましたが、「外傷性気胸とダイビング」に関する記述を見つけることが出来ませんでした。
主治医に相談したところ、「CTで検査しても問題はなさそうなので大丈夫ではないか?」と言われています。

外傷性気胸の既往歴がある場合、今後もずっとダイビングは出来ないのでしょうか?
今回は体験ダイビングで浅いところに潜るだけなので、その位であれば安全なのではないかと考えています。

医師からの回答

【気胸とは】
何らかの原因で胸膜に穴が開いて、胸膜腔に空気がたまり、肺が縮んだ状態です。
原因は様々で、原因によりダイビング適性に対する考え方も変わります。
自然気胸は再発率が高いこと、水中での再発は危険であることから、ダイビング適性は無いと捉えられています。肺疾患(喘息、肺気腫等)に合併した気胸も、もとの疾患が治っていない以上、再発しやすいと判断するため、同様にダイビング適性が無いと判断されます。

【外傷性気胸とダイビング】
一方、外傷性気胸は治癒していれば、必ずしも危険性は高くないと考えられています。
DANJAPANガイドライン

外傷性気胸は胸部鈍的外傷、鋭的外傷によって生じます。前者は肋骨骨折を伴うこともあり、後者は刺し傷、銃創などで生じます。治療は重症度によりますが、胸腔ドレーン(註;空気を抜くチューブ)を挿入しながら、損傷した胸膜が自然治癒することを待つことが多いと思います(保存治療)。

治癒の判定は、基本的には臨床経過からの判断となり、ドレーン挿入をしながら損傷胸膜治癒(瘢痕形成)を待つ→呼吸での漏れが無いことを確認する、でとどまることが多いです。

治癒後のダイビングに対するリスクですが、可能性でいえば、瘢痕性に治癒した胸膜は健常組織より破れやすい、すなわち水中で再発する可能性がゼロとは言えないと思います。ただし、証明することはできない小さいリスクであると考えます。

ただし、外傷性気胸で肺組織そのものが大きく損傷されている場合があり、その場合は別に考える必要があります(特に鋭的外傷)。
肺損傷の程度によってはダイビング実施前に肺機能検査も望ましいと考えますし、それ以前に、例えば、レントゲンで分かるほどの肺損傷(瘢痕)が残っている場合、ダイビング中の圧外傷発症のリスクがあり、ダイビングは勧めにくいと思います。

「その後順調に回復し、服薬なし、スポーツ(サイクリング、ランニングなど)も問題なし。CTで検査しても問題はない」との質問者からの情報からは、問題となるような肺損傷は無いのではとは推察していますが、主治医に確認してみてください。

上記を簡潔にまとめるのであれば、外傷性気胸後のダイビングにあたって、
1. 破れた胸膜が自然に治癒した部分は特にダイビングで問題となることはないだろう。
2. 肺損傷がひどいと、ダイビングで圧外傷をきたしやすくなるので問題となる。

となるかと思います。

なお、今回体験ダイビングの予定なので危険は少ない、とのことですが、肺の圧外傷はむしろ浅い水深で発症しやすいので、注意して潜られることをお勧めします。

【事務局より】

ケースバイケースでリスクをどのように捉えるか、が判断基準の1つとなるかと思います。
この相談は一般的な回答となりますので、上記を主治医に伝え、判断を仰ぐことをお勧め致します。

なお、体験ダイビングで行う浅場でのダイビングは、確かに一見リスクが小さいように感じるかもしれませんが、「肺の過膨張傷害」というダイビング特有の傷害という観点からは、深場でのダイビングより相対的なリスクが大きいです。
特に気胸を発症した後のダイビングでは、医師のアドバイスのように胸膜が健常組織よりも破れやすいという可能性がありますので、息を止めないようにすることで肺の内圧を高めないようにし、予防に努めることをお勧めします。

―DAN JAPANメディカルチーム

TOP