【Medical FAQ/医療相談】蝸牛型メニエール病患者のダイビング可否

【Medical FAQ/医療相談】蝸牛型メニエール病患者のダイビング可否

◆相談内容◆

質問者:男性:59才

数年前に左突発性難聴になり、聴力の軽度低下を残し治癒とされていました。4か月前にに2回目の左突発性難聴になり、聴力過敏を残し治療終了しました。その後徐々に聴力過敏はよくなっているところでした。

今回、左聴力低下と耳閉感と軽度のめまい(浮遊感)を自覚し耳鼻科再診したところ、「蝸牛型メニエール病」の診断となり、メニレットの内服治療が始まりました。めまいは消失していますが、聴力・耳閉感の改善はありません。とりあえず3か月内服予定と言われています。

ネットで調べたところ、「蝸牛型メニエール病」の場合、めまいがなければダイビングしてよいという情報がありましたが、ダイビングは可能でしょうか?

◆医師からの回答◆

◎メニエール病とは?
メニエール病は内リンパ水腫により、めまい、難聴、耳鳴りなどが生じる病気です。難聴、耳鳴り、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復するものは「メニエール病確実例」とされます。診断には各種検査が必要ですが、基本的には自覚症状により診断されます。
めまいを伴う突発性難聴では、メニエール病初回発作と鑑別がつかない場合があり、めまい発作の反復を確認したうえでメニエール病と診断します。

めまいは回転性のことが多いですが、浮動性の場合もあります。また、特別な誘因なく発生し、嘔気・嘔吐を伴うことが多く、持続時間は10分から数時間程度までと多様です。
聴覚症状はめまい発作前または発作と同時に発現・増強し、めまいの軽減とともに軽快することが多いですが、発症から年数が経過するにつれて難聴が不可逆性となることが多く、またメニエール病の両側化が生じる症例もあると言われています。

メニエール病が難病といわれる最大の問題点は、めまい発作の反復にあり、間欠期のめまい発作予防治療がきわめて重要です。まずは生活指導(過労・睡眠不足・ストレスの回避)、心理的アプローチ、薬物治療(浸透圧利尿薬、内耳循環改善薬、抗不安薬、ビタミンB12、漢方薬)といった保存的治療を開始し、無効な場合段階的に高侵襲治療に移行します。

◎蝸牛型メニエール病とは?
メニエール病には非定型例が存在し、質問者の「蝸牛型」とは、聴覚症状の増悪、軽快を反復するもののめまい発作を伴わないものをいいます。
蝸牛型は、めまい発作を伴うメニエール病確実例に移行する症例が少なくないとされています。

◎治療中のダイビングは?
メニエール病の症状は繰り返すことが特徴で、めまい発作がいつ起こるかを予測することができません。
潜水時にめまいが生じると、
●方向感覚を失って海面方向が分からなくなる
●中性浮力が取れなくなったりして大深度に潜水してしまう
●びっくりしてパニックに陥り急浮上の原因になる
●めまいにより酔って嘔吐すると、吐しゃ物がレギュレータの排気弁に詰まり、吸気時に海水を吸引して溺れる
など、いずれも命にかかわる危険性があります。

また、潜水後のめまい症状は、圧外傷、内耳型減圧障害との区別が困難となります。
加えて、薬物療法に用いられる利尿薬は脱水により減圧症の発症リスクを高めます。
以上より、基本的な考え方として、メニエール病治療中の潜水は勧められません。

【今回の質問者の場合】
残念ですが、潜水は勧められません。
蝸牛型の場合、確かにめまいはないとされますが、経過中に典型的なメニエール病、すなわちめまいのあるタイプに移行することも多いとされます。
また、反復性の疾患のために、質問者についても治癒判断が難しいことが予想されます。
質問者は今回はじめてメニエール病と診断されたようですが、数年前、4か月前のエピソードも今から振り返るとメニエール病の症状であったと説明されていることと思います。

さらに、現在服用中のメニレットは利尿剤であり、利尿剤は脱水により減圧症のリスクを高める可能性があります。
最終的には主治医の判断が尊重されますが、少なくてもメニエール病で内服治療中の現在の潜水は勧められません。

※治癒した後のダイビングは?
今後内服治療が必要なくなり、主治医に潜水してもよいかどうかの相談をする際、主治医が潜水に詳しければ問題ありませんが、詳しくない場合は、以下の観点からの相談が良いかと思います。
・潜水中のめまい発作は危険で致死的となることもあるのですが、今後めまい発作を起こす可能性はどの程度と考えますか。
・車の運転は大丈夫ですか、避けた方が良いですか。いずれにせよ、今は治療に専念されることをお勧めします。

《参考文献または参考元》

    1. ●渡辺行雄 メニエール病診療ガイドライン2011年版のポイント 日本医事新報 No.4623 p82-88, 2012
    1. ●渡辺行雄 メニエール病の診断・治療 Pharma Medica Vol.31(10)29-31, 2013
    1. ●前田幸英・池園哲郎 メニエール病診断基準 日米欧の基準を比較して Equilibrium Res Vol.76(1)8-16, 2017
    1. ●武田憲昭 メニエール病・遅発性内リンパ浮腫 MB ENT No.214 p1-6, 2018

-DAN JAPANメディカルチーム

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