【Incident Report】笑ってエア切れ

【Incident Report】笑ってエア切れ

ふざけてレギュレーターを外したら、レギュレーターとオクトパスから空気が吸えない
バディ同士のコミュニケーション、ダイビング前の器材チェックの大切さを学ぶ

[報告されたケース]
私は長くスキンダイバーもしているスクーバダイバーで、ダイビングでは50本以上潜っています。
この日、友人グループと水深20mに潜り、いつも通り水中でふざけ始めました。私は、水中ではいつもレギュレーターを口から外して笑います。レギュレーターを口に戻そうとした瞬間に、友人が後ろから私を押したので、私はさらに大笑いしました。
その後、レギュレーターを口に戻そうとしたところ、息を吸うことができず、何度か試したのですがダメでした。トラブルだと友人に知らせようとしたのですが、彼らは私がふざけていると思っていました。

残圧を確認すると、ゲージは80barを示していました。オクトパスに交換しましたが、それでも呼吸はできませんでした。友人達は離れすぎていて、彼らのオクトパスにも手が届きません。試しにBCDのパワーインフレーターボタンを押すと、BCDに給気はできました。十分残圧があったのにもかかわらず、レギュレーターから呼吸することができなかったのです。

そこで、私は急いで浮上しようと思いましたが、水面を見上げた時、直浮上が出来る距離ではないと気づきました。息をしたい衝動は本当に耐えがたいものでしたが、浮上は選択肢ではないことを理解し、パニックにならないよう、自分に言い聞かせました。
その後、最後の望みを託してレギュレーターとオクトパスのパージボタンを押したところ、なんと両方とも空気が出ました。レギュレーターを口に戻し、パージボタンを押してようやく呼吸することができました。

レギュレーターが再び使えるようになったので、ダイビングを終了しゆっくりと浮上することに決めました。すべてのことは15~20秒の間に起きた出来事です。私はいつも水中でとても落ち着いていますが、これは予想したことのないトラブルでした。これまで、レギュレーターをくわえなおすのにパージボタンを押すなんて、考えたこともありませんでした。

[専門家からのコメント]
1つの原因のみでダイビング・インシデント(深刻な事態を引き起こしかねない事件)や、事故が発生することはあまりありません。
今回のケースは、複数の原因がインシデントにつながった一例であり、重大な結果にならなかったのは非常に幸運でした。悲惨な結果につながっていた可能性もあったと思います。

このケースでは以下の原因について考えてみる必要があるでしょう。

●レギュレーターのメンテナンス
●予備レギュレーターのダイビング前チェック
●バディダイビング
●水中でのコミュニケーション方法
●ふざけながらダイビングすること

このダイバーの記述からは、当初レギュレーターには問題がなく、空気供給量は十分であったことがわかります。器材のメンテナンスについては、記述がないので不明です。レギュレーターを口から外した後、正常に機能しなくなった理由ははっきりしませんが、ある程度の推測が可能です。セカンドステージのバルブが、ゴミや塩の結晶で正常に作動しなかったのかもしれません。また、ダイビング前に、水面でオクトパスを確認したかかどうかは不明ですが、レギュレーター同様、ゴミや塩の結晶で動かなかったのかもしれません。ゴミや塩の結晶が付着している場合、通常の吸気で発生する陰圧では、レギュレーター内のバルブを作動させるのに十分な圧力がない場合があります。手でパージボタンを押したところ、ようやくバルブを作動させるだけの圧力が生じました。レギュレーターを口に戻す前にパージボタンを押すのは、標準的な手順であるはずです。

器材の適切なメンテナンスの必要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。ダイビング前にレギュレーターとオクトパスの両方を水面で呼吸してみることで、問題に気付くことができます。また、このチェックによって最悪の事態を回避する、または対処できることでしょう。

さらに今回のケースでは、バディ同士が助け合うことのできる、適切な距離にいる必要性を示唆しています。透明度が良い時に「たがいに見える距離にいる」バディは「必要な時にアシストする」には離れすぎている恐れがあります。見える距離にいても、バディが助け合うには遠すぎる場合があり、時には離れ離れになってしまうこともあります。このケースでは、問題をバディに気づいてもらえなかった後「バディが遠すぎてオクトパスに手が届かなかった」と本人が報告しています。問題となる状況は、たったの数秒でさらに悪化する可能性もあります。DANの発表しているデータでは、40%の死亡事故でバディと離れ離れになった状態が関与していることを示しています。

バディとの適切なコンタクト、および有効なコミュニケーションは、安全なダイビングに必要不可欠です。このダイバーは、バディに自身の状況をどのように伝えようとしたか、報告していません。今回の状況は、もちろん講習で想定された状況ではありませんが、一般的なハンドシグナルを使用するのが最も適切でしょう。ダイビング前、バディと一緒のハンドシグナルの確認は、互いに理解度を確認できるため、大変重要です。この手順は、めったに使用しないハンドシグナルについても確認、および練習する良い機会となります。器材の適切なメンテナンス、バディコンタクトとコミュニケーションの確認は、代わりになる手順が無いのです。

そして最後に、確かにダイビングは遊びですが、真面目な活動であることを認識しておくのが重要です。ダイビング中にふざける余地はほとんどないのです。

– Marty McCafferty, EMT-P, DMT

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